Y-06(2024)田んぼだより

 例年通り、ウンカ被害予防のために一番最後に植える予定だったY-06ですが、今年は急遽トップバッターで植えることになりました。いつも最初に植えるY-13に代かきをするのに必要な水を溜めることが出来なかったからです。
 私の田んぼがある緒方町の中心部では、緒方井路という農業用水路のおかげでほぼ涸れることのない豊富な水が確保されています。緒方井路は、江戸時代、「荒城の月」で有名なおとなり竹田市の岡城4代藩主、中川久成公の命で作られました。私の田んぼもこの緒方井路からの支流で全てまかなわれています。この江戸時代の素晴らしい大事業のおかげでお水は豊富にあるにもかかわらず、現代の稚拙な設計の支流の水路と、お水を有効に分け合えない現代人のせいで、支流の最後にある私のY-13の田んぼの水が確保出来ませんでした。今までもお水が途切れることはありましたが、今年は全く溜めることが出来ず、急遽田植え順を変えることにしました。

 全て手作業で田植えをするので1枚の田んぼに数日かかる我が家では、1日もムダに出来ません。ウンカ被害のリスクを感じながら、どうか元気にたくましく成長してくれと願いながら、田植えすることになりました。

 6月20日の午後より私一人で田植えを開始。二日目は妻にも手伝ってもらい、3日目は田植え大好きな長女も手伝ってくれ、無事に植え終わりました。

(2024.6.20 撮影)

(2024.6.22 撮影)

 今年の3枚の田植えは、それぞれ木金土の3日間、3週間で終わらせる計画としました。
 田植えが終わるとすぐに除草作業に入りますが、次の田植えと重ならないように計画する必要があります。田植え前にトラクターで泥を均平にならす植え代かき作業がありますが、その日から1週間以内に最初の除草をスタートさせるという目安があるので、Y-06の1回目の除草は、田植え終了の2日後、6月24日に行いました。いつものように田車の付いたアルミ製の除草機で行いました。除草機は田んぼの縦方向、横方向のどちらにも行いますが、今年も、ムリをせず体力を温存するために、1日で行うのは1方向のみとし、縦方向からスタートしました。
 それからほぼ1週間おきを目処に、縦、横、縦、横と除草作業をしていきます。

(2024.7.6 撮影 縦横それぞれ1回の除草をした後です。横方向に足跡が残っています。)

 除草作業はとても順調でしたが、縦横2回目の除草をするころには、イネの株近くで取り残されたヒエが目立つところが少し出始めました。そこで今年は、少し早めに手作業でのヒエ取り作業を行いました。まだ小さいので両手いっぱいになるまでたくさんのヒエを抜き取れました。また、ヒエ以外のオモダカなども一緒に除去出来ました。最後3回目の除草機を押すときには、かなりきれいな田んぼになっていました。


(2024.7.24 撮影。 縦横それぞれ3回の除草を終えました。横方向から見たところ。稲の間にほとんど草が見当たりません!)

 数年前、近所の酒蔵の当主で、酒造りに使う酒米も大規模に栽培されている方からある話を聞きました。10年ほど前には、田んぼの除草作業で私が苦労している様子を見て、エンジン式の除草機を貸して下さったり気にかけてくれていたので、話してくれたのだと思います。その話とは、ジャンボタニシを使った除草の話です。同じ地域内の田んぼで、ジャンボタニシを田に放し、除草をさせているところがあるが、本当に草1本なく、きれいな田んぼになってるから一度見てみると良い、と話してくれました。
 農業を始めたばかりの頃、前に勤めていた会社でお世話になった農業に関心のある方から、有機栽培米で食味コンテスト一位になった人が近所にいるよと、栽培方法などを書いた薄い冊子をもらったのですが、その人もジャンボタニシを除草に使っていました。

 一般に、ジャンボタニシは稲も食い荒らす害虫として田んぼの嫌われ者になっています。それを除草に利用するためには、ジャンボタニシが主に水中でしか活動しないという特性を活かし、田んぼの水を極力少なくして稲を食べにくくすれば周辺の小さな草だけを食べてくれると言われています。一方で、通常の無農薬栽培では、草をできるだけ生えにくくするために、水を深く溜める方が良いと言われていて、私のところも可能な限り深水にするようにしています。つまり、除草に関しての水管理が真逆になります。
 そのジャンボタニシですが、3年ほど前から私の田んぼY-19でも見かけるようになり心配していたのですが、次第に3枚全ての田んぼで見られるようになり、今年はどの田んぼでも当たり前のようにたくさん動き回るようになってしまいました。
 私は、ジャンボタニシを利用するつもりはなく、深水管理のままなので、どうなることかとヒヤヒヤしていましたが、稲が食害されることは全く起こっていません。一方で、除草機を押していると、独特のピンク色をしたジャンボタニシの卵の塊が、あちこちのあぜの草の根本付近に着いているのを見かけます。それどころか、育ってきた稲の株元の方にも卵が産み付けられているのを発見します!
 「常識を疑え。」ジャンボタニシは本当に最悪の害虫なのか、疑いの目を持ちながら観察しています。

(2024.7.24 撮影。 縦横それぞれ3回の除草を終えた後。 右手前のイネにジャンボタニシの卵が!) 

 我が家の田んぼは、田植えが終わり、稲刈りの準備を始めるまで、24時間毎日ずっと水を入れっぱなしにしています。過去に、水が切れて地表面が見えるようになったところから草が激しく生え、手に負えなくなったと言うことを何度も経験してきました。草の発生を少しでも抑えるために、中干しも一切せず、ずっと入れっぱなしです。
 なので、水を入れたり止めたりという管理をする必要が無いのですが、放っておくと水口にいろんなものが詰まって水が止まってしまうので、その確認を毎日しています。上流の田んぼのあぜ草刈りで流された草やどこかで発生した藻など、いつ何が流れてくるか分かりません。最低でも朝晩2回、時間があれば、お昼前とお昼休み後も確認します。そしてその時に稲の様子もじっくり見て、心の中で声をかけて回ります。

 毎年本当にきれいだなあと思うのは、早朝の稲の葉先に葉水がキラキラと輝いているところです。クモの巣もあちこちにかかっていて、一緒に輝きます。 

(2024.8.13 撮影)

 温暖化の影響で、今年のような猛暑はこれからもっと激しさを増すことが予想されますが、その最も暑い時期に成長し実を付ける稲は、高温障害が出やすくなるのは間違いありません。その高温障害対策としても、新鮮な水を絶えず流し込んで田んぼを冷却するのは理にかなっています。

 農薬を使うかどうかに限らず、収穫をコンバインで行う田んぼでは、中干しをしておかないとコンバイン操作時に土がぬかるんで不具合が起こりやすくなるそうです。元々中干しは、稲が分けつしすぎるのを止め、実を充実させるために行うものだそうですが、肥料や堆肥を入れた田んぼでは、夏の暑さも手伝ってどんどん栄養を吸収し、中干しをしなければどんどん分けつし、背丈も高くなるのでしょう。
 我が家は自然栽培なので農薬だけでなく、肥料も一切使わない栽培方法です。さらに病気や害虫対策として、風通しを良くするために縦横余裕を持って植えています。自然栽培では、その年の状況を稲が敏感に感じ取り、自分の身の丈に合った大きさに成長・分けつしているように思います。天候が良くたくさん分けつをしても、前後左右余裕を持って植えているので問題ありません。
 また、稲刈りにはコンバインのような大型機械は使わず、バインダーという小さな機械しか使いません。おかげで中干しをしなくても全く問題ありません。

 お盆を過ぎ、昨年より少し早く、最初に田植えをしたY-06から出穂が始まりました。
 毎年のことですが、同じ地域の田んぼと同じ時期か少し遅いくらいに田植えをしているのに真っ先に出穂が始まります。お隣で、酒屋さんの田んぼの酒米(田植えがとても早く、当然稲刈りも一番早い。)がすでに穂が出そろい頭を垂れているのであまり違和感を感じないかもしれません。枝葉を伸ばす栄養成長と、花を咲かせ実を付ける生殖成長と、明らかに自然栽培ならではの育ち方をしていると思います。

(2024.8.16 撮影)

 例年、出穂が始まり稲穂が伸びてくると、取り除けなかったヒエがひゅっと稲よりも背が高く顔を出してくるのですが、今年のY-06では、ほぼ見当たりません!今のところ、本当に美しい田んぼになっています。

 今年は、店頭でお米が無くなるという“米騒動”が起こっていますが、実際には消費量をまかなうだけの量が十分あるはずです。米騒動をあおっているメディア、軽いパニック状態で消費ではなく備蓄のために米を購入している消費者、問題の本質は、冷静さを欠いた人々の行動にありそうです。
 実際、日本では栽培可能な米の量に対し、米消費はずっと減り続けていて、基本的に今も減反政策、そして最近は食用ではなく“飼料米”の栽培も増えています。私たちの町でも結構“飼料米”は栽培されていて、どちらかというとあまりきっちりと管理されておらず、除草剤も使っているはずですが、かなり草が生えています。様々な経費は高騰する一方で、米の販売価格だけは上がることなく、米農家の経営は厳しくなるばかり。農業者もどんどん減り、少数の人にたくさんの田んぼの管理が任されるようになり、あぜの草刈りを含めた管理作業が行き届かなくなっているのが現状です。

 私の待ちもそんな状況で、最初は地域で一番草の多い田んぼだったと思いますが、数年前頃から、あまり目立たなくなり、今年はとても美しい田んぼになっています。(今のところ)

(2024.8.20 撮影)

(2024.8.25 撮影。 次第に稲穂が頭を垂れるようになってきました。)

 8月末、当初予報から大幅にずれ、台風10号が九州に上陸しました。とても強力に発達しながらやって来たのですが、九州接近後は、急速に衰えました。それでも大分県内のあちこちで大雨による被害がでました。私のところでは大きな被害が出ることなく、通過してくれましたが、何度やって来ても台風は怖いですね。地震と違って、前もって準備と覚悟が出来ることだけが救いですが。

 台風を乗り越え、田んぼの稲たちは元気に成長を続けています。

(2024.8.31 撮影。)

 9月に入り、朝晩涼しくなってきましたが、日中の残暑はまだまだ続き、35℃付近まで気温が上がります。8月より、寒暖差が大きくなってきたのは確かで、稲の生長やお米のおいしさに良い方向で効いてくれると良いのですが。

 稲が順調に育っていく一方で、稲の間からシュッと高く伸びる緑の葉っぱが目立つようになってきました。観察を続けていると、実が付き、それがヒエであることが分かりました。とてもうまく除草出来ていたと思っていましたが、やはりそう簡単ではなく、あちこちからヒエが顔を出してきました。
 ただ、稲と稲の間はとてもきれいなままで、稲のすぐそばや、分けつした稲の株間からヒエが顔を出しています。そして、道路側(西側)はたくさんのヒエが出てきましたが、中央から東側はほとんど出ていません。全体としてはうまく除草出来ていますが、この偏って草が多く生えてきた西側部分を来年はどうやって除草するか、研究したいと思います。また、来年に種を落とさないよう、稲刈りまでにヒエを刈り取り運び出したいなあと思います。

(2024.9.11 撮影。)